第21話「ミクロ・コスモス」

セリフとト書き

[ オープニング ]

ナレーター: マクロスは、地球から追放されたも同然の事態となった。しかし、マクロスに生活する民間人のバイタリティは、とうとう艦内でカンフー映画「小白竜」を完成させてしまった。そして今夜は、映画「小白竜」公開前夜祭のパーティ…。

[ ドレスアップしたミンメイ、パーティ会場のベランダでひとりたたずんでいる ]
ミンメイ: [ 独白 ]輝、いまごろ、どうしてるかしら? ずいぶん会ってないわ。
マネージャー: どうしたのよ、今夜の主役がこんなところで、ひとりさびしく。
ミンメイ: そういうマネージャーはウォッカの飲みすぎよ。
マネージャー: へん、このくらいは飲みすぎといわないの。飲みすぎってのはきみがふたりになるという至極、幸福な状態なのよ。
ミンメイ: 2倍きれいに見えるかしら?
マネージャー: ああ、ちがうちがう。スケジュールが2倍組めるからよ。ふっははは、え、ジョークジョーク。さっ、なかに入ろう。風邪ひくよ。
ミンメイ: あたし、疲れちゃった。
マネージャー: 疲れた? もう倒れるのはなしよ。あんときはたいへんだったんだからね。
ミンメイ: うん、なんかいまの生活にね。
マネージャー: ああ、映画が完成して仕事もいち段落ついたから、気がぬけたんだよ。
ミンメイ: ちょっとちがうんだけどなあ…。そうだ、初日の指定席、ひとつ確保できない?
マネージャー: 初日は明日だ。それもこんな夜遅く…。
ミンメイ: ダメ〜?
マネージャー: ああ、なんとかするわ。指定席の1枚ぐらいまかせときなさい。じゃあね!
ミンメイ: あはっ、初日の指定席なんてわれながら名案ね!
ジャミス: あ〜ら、主役のミンメイさん。悪役のジャミスですよお。あっ!
[ ジャミス、よろけたふりをして、ミンメイに飲みものを浴びせかけようとする。ミンメイ、それをよけて ]
ミンメイ: ああんっ。
ジャミス: ごめんなさい。せっかくのドレス、台なしにするところだったわねえ。
ミンメイ: いいえ。
ジャミス: でもこのドレス、高かったんでしょ? あたしのほどじゃないにしても。
社長A: ジャミスちゃん。ん、ジャミスちゃん、はやく〜。
ジャミス: は〜い、いま行きますよ、社長さん。
社長A: あら、ミンメイちゃんかな?
ジャミス: ああ、社長さん。あんな小娘なんかほっといて、大人は大人どうし、ねえ。
社長A: [ ミンメイに未練があるが ]ん、んん…。
ミンメイ: あれも疲れる原因のひとつね。
カイフン: ミンメイ、マネージャーから伝言だよ。特等席、Aの5番がとれたってさ。
ミンメイ: うわあ、うれしい! ありがとう。
カイフン: 礼ならマネージャーにいえよ。さ、明日ははやい。もうおやすみ。
ミンメイ: そうするわ。
カイフン: [ 肩に手をまわして ]部屋まで送ってあげよう。

[ マクロス軍宿舎。当直員が雑誌を読みながら、電話をとる ]
当直員A: はい、こちら軍宿舎、男子寮。
ミンメイ: あの、そちらに一条中尉、いらっしゃいますか?
当直員A: 一条中尉…、ちょっと待ってください。あ、中尉はいま偵察機の護衛で出ておられます。
ミンメイ: いつごろお帰りになりますか?
当直員A: それはいえません。
ミンメイ: そうですか…。すみませんが、「小白竜」の初回の、Aの5番がとってありますからと、お伝えねがいます?
当直員A: Aの5番ですね? で、あなたは?
ミンメイ: 「にゃんにゃん」といっていただければ。
当直員A: そういえば、わかりますか?
ミンメイ: ええ! それじゃ、失礼します。
当直員A: はい、ご苦労さま。
[ 当直員、電話を切る。ミンメイ、電話を切る ]
ミンメイ: どこ行っちゃったのよ。せっかく指定席とってあげたのに。

[ 輝、軍宿舎にもどってくる ]
輝: ただいま。
当直員A: お疲れさまです。あ、中尉、一条中尉。
輝: なんですか?
当直員A: さっき、中尉にお電話がありましたよ。
輝: 誰から?
当直員A: 若い女の人で、「にゃんにゃん」といえばわかると。
輝: えっ、ほんと!? あっは、やった〜!
[ 輝、外に駆けだしてゆく ]
当直員A: あ、それからあの、Aの5番がどうとか…。ああ、行っちゃったよ。まあ、いいか。

[ 輝、軍宿舎の向かいにある公衆電話から電話をかける ]
輝: もしもし、ミンメイさんは? はあ、…じゃあ、そのホテルの連絡先をお願いします。
[ ミンメイの部屋の電話が鳴る ]
輝: はやく、出ないかな。
[ 電話、切れる。電話といれちがいにパジャマ姿にコートを羽織ったミンメイが、マネージャーに連れられて部屋に入ってくる ]
マネージャー: いくら気晴らしだからって、そんな格好で出歩いちゃまずいでしょ。もう寝なさい! おやすみ。
[ マネージャー、ドアを閉める ]
ミンメイ: おやすみなさい…。

輝: 電話の用件、なんだったんだろう。ミンメイから電話なんて。…そういや明日、「小白竜」の初日か。

[ ミリア、マクロス市街地を歩いている。「小白竜」を見るため、長蛇の列ができている ]
ミリア: 兵士だ! このなかにわたしを落としたやつがいるかもしれん。
[ ミリア、列のわきを歩いてゆく ]
ミリア: あっ!
[ 「小白竜」の映画館の前に人だかりができている ]
ミリア: [ 独白 ]これはいったいなんの集会なんだ?
[ 映画館の前にミンメイとカイフンの乗った車が到着する。騒ぐ人びと ]
警備員A: 押すんじゃない! こらあ、静かに!
[ ミンメイ、車を降りて手をあげる。カイフンもあらわれ、連れだって映画館に入ってゆく ]
パイロットA: へえ、ミンメイちゃんは人気あるなあ。
マックス: ん、朝いちばんからならんでた甲斐があったね。

[ 映画館内のステージ。マックスと部下、そのとなりにミリアがいる。輝は後方で立ち見 ]
監督: 今日はみなさん、朝はやくからほんとうにありがとうございます。軍の全面的なご協力にささえられ、この「小白竜」はやっと完成いたしました。ここで主演のふたりに登場していただきましょう。ご紹介します。リン・カイフン、そしてリン・ミンメイ!
[ 舞台下手からミンメイ、カイフン登場。ミンメイは舞台にちかいAの5番席に眼をやる。隣席に叔父と叔母はいるが、Aの5番は空席。ミンメイ、顔を曇らせる ]
監督: ミンメイ、はじめての主演の感想は?
ミンメイ: たいへんでした。監督さんには毎日、怒られましたし。
監督: おいおい、わしはそんなに怒ったかね。
ミンメイ: あはっ、ごめんなさい。監督さんはやさしくしてくださいましたし、スタッフのみなさまにもたいへんご迷惑をかけました。でもあたしはあたしなりに一生懸命がんばったつもりです。どうか最後まで楽しんでください。
[ 輝、拍手する ]
監督: ありがとう、ミンメイ。あとで楽屋でう〜んとやさしくしてあげるよ。さて、カイフン、きみもひと言ごあいさつを。
カイフン: そうですね、わたくしのごとき若輩がこのような大作に主演できたのも、ひとえに監督はじめ、みなさまがたのあたたかいご支援があったからです。どうもありがとう。
[ 輝、背後に噂話を聞く ]
観客A(女): そういえばミンメイは、あのカイフンとデキてるんだって!
観客B(女): うっそ〜! ほんと?
観客A(女): ほんとよ。
観客C(男): ウソだよそんなのは! ミンメイ親衛隊の前でよくそんなことがいえるなあ!
観客D(男): うるせえぞ、てめえら。聞こえねえじゃねえか。
監督: さあ、前座はここらで消えよう。ではミンメイちゃん、あとを頼んだよ。
ミンメイ: は〜い。
[ カイフン、監督、退場。ミンメイ、マイクを持つ ]
ミンメイ: それでは聴いてください。テーマ・ソングの「小白竜」です。歌「小白竜」。ミンメイ、歌いながら上手に退場してゆく。映画がはじまる ]

[ ブリタイ艦ブリッジ ]
ゼントラーディ兵士A: 拡大投影、準備完了。
ブリタイ: よし、映せ。
[ モニタに「小白竜」が映る。カイフンが敵とカンフーで戦っている ]
エキセドル: 戦闘記録映像のようですな。
ブリタイ: 原始的な戦いだな。このていどの戦闘記録映像に、連中はなぜ熱中するのだ?
エキセドル: さあ…。わたしにはわかりかねます。

ミリア: [ 独白 ]はっ、あの独特な戦いかた。もしかしたら、あいつがわたしを倒したやつなのか。

[ 「青い風」3人組をはじめゼントラーディ兵士たちも「小白竜」の映像を受信して見ている ]
ゼントラーディ兵士B: ああ、あれがミンメイちゃんか!
ゼントラーディ兵士C: 動いてる、しゃべってる!
ワレラ: おまえらな、ほんとうのミンメイちゃんはもっとかわいいんだぞ!
ロリー: 俺たちなんかなあ、ほんもののミンメイちゃんを見ちゃったんだもんね。
コンダ: お、俺たち、ミンメイちゃんの友だちなんだぞ。
ゼントラーディ兵士: [ 口ぐちに驚きの声をあげる ]ええ〜!
ゼントラーディ兵士B: あ、おい、見ろ!
ゼントラーディ兵士: [ 口ぐちに ]おお!
[ 映画のカイフン、ジャンプして指さきから衝撃波を出す ]
ブリタイ: むっ、いまの力はなんだ!?
エキセドル: ま、まさか。伝説の力では…。
ブリタイ: なんだと! きゃつらはそんな力を持っていたのか!
エキセドル: さすれば、この前の強力なエネルギー障壁もうなずけますな。
ブリタイ: とりあえずボドル・ザー総司令に報告しておくか。

[ 「小白竜」劇中、戦いを終えたカイフンが気をうしなっているミンメイを抱きあげる。気がつくミンメイ。ミンメイ、カイフンが唇をあわせる。映画を見ていた輝、眼をふせて立ちさる ]
観客E: いてっ!
輝: すみません。
観客F: 前が見えんぞ!

[ ミンメイ、カイフンのキス・シーンを見ておどろくゼントラーディ兵士たち ]
ゼントラーディ兵士: [ 口ぐちに ]おおっ!
ゼントラーディ兵士B: こ、これは…。この気持ちは!?
ゼントラーディ兵士C: 胸がジーンと熱くなってきたぞ。
ワレラ: 「文化」ってのは、その感じの連続さ。
ゼントラーディ兵士C: 「文化」ってそんなにすごいのか。
ロリー: すばらしいもんだぜ。
ゼントラーディ兵士B: お、おまえら、おまえらもミンメイちゃんと、いまみたいなことしたのか?
ロリー: そ、そうよ。
コンダ: そうとも。
ワレラ: 1回や2回じゃないぜ。
ゼントラーディ兵士: [ 口ぐちに ]ええ〜!?

[ 輝、映画館から出てくる ]

[ アイキャッチ ]

[ 輝、映画館から出るとき観客の足につまずいてよろける ]
輝: うわっ、たっ…。
[ とっさに手を前に出した輝、ぐうぜん前にいた未沙のお尻にうっかりさわってしまう ]
未沙: きゃっ!!
輝: ああ、ごめんなさい。
未沙: はっ、一条中尉。
輝: は、早瀬大尉。あ、どうも、ちょっと転んじゃったもんで。
未沙: ふ〜ん、で、そこにぐうぜん、あたしがいたっていうの?
輝: そうだよ。ぐうぜんでもなきゃ、誰があんたの尻なんかに!
未沙: はっ、いったわね!
野次馬A: いいぞ、お姉ちゃん。
野次馬B: そんなスケベ男、警察に突きだしちまえ。
未沙: こっちへ来なさい。[ 輝の手をとって引っぱってゆく ]まったく、軍の体面もなにもあったものじゃないわ!

[ 「小白竜」上映館の外 ]
輝: うわっとと…。
未沙: いい恥かいたわよ。もう、なんだってあんなところにいたの?
輝: ちょっと映画を見に。
未沙: あなたも、途中で抜けだしてきた口ね…。
輝: えっ?
[ 警報が鳴る ]
輝: 敵襲だ!
キム: [ 艦内放送 ]トランス・フォーメーションに入ります。市民のみなさんは避難してください。
人びと: [ 口ぐちに ]ああっ!
未沙: こんなにはやくフォーメーション!?
輝: 大尉、ここらへんの避難場所を知ってますか?
[ 未沙、肩におかれた輝の手を振りはらう ]
未沙: ときは一刻を争うのよ。このまま基地まで走ります!
[ 衝撃 ]
未沙: ああっ! ああ〜。
輝: うわあ。
[ トランス・フォーメーション開始。輝と未沙の立っていた道路が上方にせりあがってゆく ]

[ ミンメイとカイフン、非常階段を駆けおりてゆく ]
ミンメイ: はやく、避難所はこっちよ!
[ ミンメイが階段を降りきったところでとつぜん道路が割れて下方にさがり、ミンメイは足をとられて墜落しそうになる ]
ミンメイ: あ、きゃあ〜!!
カイフン: ミンメイ!
[ カイフンの伸ばした手がミンメイをつかまえる ]
カイフン: ああ。
ミンメイ: ああ。
カイフン: だいじょうぶか、ミンメイ?
ミンメイ: あ…。
[ ミンメイ、自分を救ったカイフンの顔が輝とオーバーラップする ]
ミンメイ: ああ…!
カイフン: [ ミンメイを引きあげる ]ええい、ふっ!
ミンメイ: あ、うっ、う!
カイフン: だいじょうぶか、ケガはないか?
ミンメイ: ええ。
[ ミンメイ、カイフンの胸に顔をうずめる。カイフン、ミンメイを抱きしめて ]
カイフン: 恐かったろう、もうだいじょうぶだよ。まったく、軍は市民に避難する時間もあたえないのか!

[ 「小白竜」上映館 ]
スタッフA: ここは安全ですから! どうかお静かに!
マックス: なんだ、もうすぐ見終わるってのに。
[ マックスの前をミリアが横切る。マックス、ミリアに気づく ]
ミリア: [ 独白 ]わたしは、あの男に会わねば…!
マックス: おっ!

[ マクロス市街地 ]
輝: あそこをまがれば、なんとかなるかも。
[ 輝、未沙、袋小路に行きあたる。背後から壁が迫ってくる ]
輝: ああ!
未沙: あっ!
[ 輝、未沙、閉じこめられる ] 未沙: だいたいあなたが角をまがろうなんていうから!
輝: しょうがないだろう! 一本道がまがってるんだからまがるしかないじゃないか!
未沙: ん、もう…。
輝: それに、まがってなきゃつぶされてたよ。だいたい避難場所に一時避難してりゃい…。
未沙: 上官にたいしてそんな口のききかたがありますか!
輝: こんな状況で、上官風吹かすの、やめてくれよ。
[ 輝、すわりこむ ]
未沙: は…。
[ 未沙も腰をおろす。爆音と振動が起こる ]
未沙: 攻撃がはじまったみたいね。…シャミーだいじょうぶかしら?

[ マクロス・ブリッジ ]
シャミー: ちがうんです。ファランクス・パール中隊さんは、えっと、Bブロックじゃなくて、C−4ブロックの防戦にまわってください。
パイロットB: 指示はちゃんと出してください!
シャミー: すみません…。[ 祈るように ]あ〜ん、早瀬大尉、はやく来てください。

[ マクロス市街地 ]
未沙: ねえ、すねてないでなにかいってよ。
[ 輝、黙りこんでいる ]
未沙: 一条中尉、なにかしゃべりなさい。
[ 輝、沈黙 ]
未沙: ねえ、なにかしゃべってよ。あたしの悪口でもいいから。しゃべってないと、心ぼそいのよ…。
輝: おたくの口から「心ぼそい」なんて言葉が聞けるとは、思ってもみなかったよ。
未沙: あ、悪かったわね!
輝: そうそう、そのほうが大尉らしい。
未沙: ん。[ 不満そうにつぶやく ]さっきのだって、あたしらしいのに…。
輝: じつは、俺もすこしさびしかったんだけどさ。
[ 間 ]
輝: あのさ!
未沙: あの…。
[ 輝、未沙、同時に口をひらく ]
未沙: あ、ああ…、どうぞ。
輝: え、んん、しかし、なんでこんなにはやくフォーメーションに入ったのかなあ?
未沙: ああ、あたしのいないあいだは、シャミー少尉が戦闘指示を出しているはずよ。
輝: ああ、それでか。
未沙: あれでも、専門教育うけてるのよ。
輝: そういや、マックスはちゃんとやってるかな?
未沙: だいじょうぶよ。かれは天才なんでしょ?
輝: ああ。俺よりも才能あるからな。
未沙: 天才よ。戦闘判断は的確だし、操縦技術もトップじゃない。
輝: あいつの前じゃ、そんなこといわないでくれ。
未沙: あ、どうして?
輝: まあ、あいつにかぎってそんなことはないだろうけど、戦闘でいちばん恐いのは自分を過信することなんだ。
未沙: ふふっ、いっぱしの指揮官らしいこというじゃない。
輝: まあな。

[ 「小白竜」上映館 ]
マックス: [ くしゃみをする ]は…、はっくしっ! 誰か噂してるなあ。

[ マクロス市街地 ]
輝: こうしてると、捕虜になったときのことを思いだすな。
未沙: そうね。あのときは…、たいへんだったわね。でも、あのときほど切羽つまってないわよ。なんといっても、マクロスのなかですもの。
輝: そうだな、ここは敵艦のなかじゃない。
[ 輝、唯一外とつうじている上方を見あげる ]
輝: でも、遠いな。
未沙: すぐ開放されるわよ。敵の攻撃がやみさえすれば。
輝: やんでも、またすぐ攻撃。なんどでも飽きないよ、やつら。でも、敵はなんで俺たちを生かしておくのかな? あれだけの力があれば…。
未沙: そうね。これはあなたも聞いてるかもしれないけど、敵にはいまふたつの勢力があるらしいの。ひとつはあたしたちを「プロトカルチャー」だと考え、それを恐れるあまり、手を出すべきではないとする勢力と…。
輝: ぎゃくにつぶそうって連中か。
未沙: そう。その結果、命令系統が混乱して、あんな散発的な攻撃しかできないんじゃないかしら。
輝: しかし、いつまでこんなことがつづくのかねえ。
未沙: でも、この混乱がおさまったら、あたしたちどうなると思う? 生きのこるか、死滅するか。

[ マクロス・ブリッジ ]
シャミー: パープル中隊さん、そっちへ敵の主力がまわりました。ファランクス・ルビー隊さんもパープルさんの応援にまわってください。
キム: 戦闘指示に余裕が出てきたわね。
クローディア: でも、まだあぶなっかしいなあ。
シャミー: 戦闘中は私語を慎んでください。
クローディア: はいはい、わかりました。
ヴァネッサ: うふふふ。
キム: うふふふ。

[ マクロス市街地 ]
未沙: 喉、かわかない?
輝: [ 立ちあがって ]コーラ!
未沙: はっ、一条くん、どうしたの!? だいじょうぶ?
輝: コーラ! コーラ!
未沙: あっ。
[ 移動式自動販売機が上方でウロウロしている。機械には輝と未沙の位置がわからない ]
輝: コーラ〜!! お〜い、コーラ〜!! ええい、ちっきしょう。
未沙: 一条くん、無駄よ。すわんなさい。
輝: うん。
[ 輝、あきらめて腰をおろす ]
輝: そういや、早瀬大尉はどうして映画館にいたの?
未沙: なによ、きゅうに…。
輝: いや、思いだしたから聞いただけさ。
[ 未沙、黙る ]
輝: なにか、いえないようなわけでもあるの?
未沙: ないわよ、そんなの。あなたとおなじで、映画を見に行っただけよ。
輝: ふ〜ん、映画見てたの。ほんとかな?
未沙: 見てたわよお、ちゃんとカイフンさんとミンメイさんのあいさつだって聞いたんだから。
輝: へえ、早瀬大尉でも映画なんか見るの。
未沙: いいじゃない! あたしだって女の子よ!
輝: 女の子って歳かよ、オバンのくせに。
未沙: ああ、いったわねえ!
輝: だって女の子は…。まてよ、女の早瀬大尉がミンメイを見に行くわけないよなあ。…そうか、カイフンがお目あてなんだ!
未沙: ち、ちがうわよ…!
輝: うわあ、そうだ。そうなんだろう。早瀬大尉はカイフンがお目あてで映画に行ったんだろう! で、早瀬さん、カイフンさんのどんな点に惹かれたんですか?
未沙: はっ、なによ、バカにして! そっちこそ、ミンメイさんとうまくいってるの!?
輝: [ 厳しいところを突かれて ]ん、んんっ…。
[ 図星をさされてショックをうけた様子の輝 ]
未沙: あ…。
輝: [ 独白 ]ミンメイ…。
[ 輝、閉鎖区画でのミンメイとの漂流生活を思いだす ]
輝: 10年も前のような気がするよ。
[ 輝、膝を抱えこんで意気消沈する ]
未沙: ねえ、ねえ。あたしのいったことなんて気にしないでよ。そんな深刻にならないで。
輝: 早瀬大尉も、俺とおんなじ理由で、途中で映画館を出たの?
未沙: あ。
輝: でも、なんだってあんな軍人ぎらいの男が気に入ったのさ。
未沙: むかし、ちょっとあこがれた人によく似てるのよ。その人はなにもいわないうちに死んじゃったけど…。
[ 未沙、ライバーを思いだして泣く。輝がハンケチを差しだす ]
未沙: ありがとう。でも、一条くんにしてはすこしキザっぽいわね…。ごめんなさい、ちょっと思いだしちゃったものだから。
輝: いいんだよ、こんな生活、好きな人でもいなくちゃ、やってけないよ。
未沙: ええ、そうね。

[ マクロス・ブリッジ ]
ヴァネッサ: 敵、後退していきます。
キム: ふう、やっと終わった。
クローディア: シャミーちゃん、はやく臨戦態勢、解いてくれない? あたしねえ、デートの約束があるんだけどなあ。
シャミー: それは、艦長の権限です!

[ 輝と未沙、肩を寄せあってすわっている ]
輝: 俺たち、これからどうすりゃいいのかねえ。
未沙: 今日を精いっぱい生きる。それしかないんじゃない?
輝: そんなもんかな…。
未沙: そんなもんよ。
[ 見つめあう輝と未沙。間。とつぜん周囲の壁が動きはじめる ]
輝: お、おおっ…。
未沙: はっ!
輝: フォーメーションが解除されたんだな。
未沙: そうね、助かっちゃったのね…。

[ マクロス市街地を歩く輝と未沙のそばに、移動式自動販売機が近寄ってくる ]
輝: コーラ、飲む?
[ 輝、ポケットから硬貨をとりだす。未沙が手で制止する ]
未沙: 上官におごろうなんて、10年はやいわよ。
[ 未沙、販売機に硬貨を入れてコーラ2本を買う ]
輝: じゃ、いただきます。
未沙: ええ。
[ 輝、なにかに気づいて未沙をひき寄せ、自動販売機のかげに押しこむ ]
未沙: あっ、なにするの!?
輝: しっ、黙って!
未沙: なにがあるの?
輝: ダメだ、大尉は見ないほうがいい。
[ 未沙、自動販売機のかげから顔を出してのぞく ]
未沙: あ…。
[ ミンメイとカイフンが連れだってホテルに入ってゆく姿が見える ]
ミンメイ: ふふふ…。
輝: ま、こんなもんかもね。
未沙: ん、だいじょうぶよ。カイフンさんはあの子の従兄なんでしょう? それに、あの子は誰とでも仲よくなる子だし。
輝: でも、仲がよすぎるよ。
[ 輝と未沙、ふたたび街路にもどって ]
輝: じゃあ俺、プロメテウスへ行ってみるから…。
[ 行きかけた輝は、未沙に手をにぎられてひきとめられる ]
輝: ん?
未沙: 格納庫なんて、あとで行けばいいじゃない。それより、もうちょっとつきあってくれない?
輝: う、うん。いいよ。
[ 黙って歩いてゆく輝と未沙 ]

[ 次回予告 ]

ナレーター: ブリタイは、みずからの乗艦をおとりとした最後のマクロス奪取作戦を開始した。おりしもマクロス艦内では、ミンメイのコンサートがひらかれていた。そこへ奇襲を成功させたバトルポッドが乱入してゆく。
次回、「超時空要塞マクロス」、「ラブ・コンサート」。

[ エンディング ]

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登場する人びと(登場回数)

一条輝(21)
リン・ミンメイ(21)
早瀬未沙(21)

クローディア・ラサール(19)
マクシミリアン・ジーナス(マックス)(13)
柿崎速雄(14) - 回想シーンのみ セリフなし
ヴァネッサ・レイアード(20)
キム・キャビロフ(18)
シャミー・ミリオム(19)

リン・カイフン(7)
ジャミス・メリン(2)
ミンメイ叔父(リン・シャオチン)(8) - セリフなし
ミンメイ叔母(リン・フェイチュン)(8) - セリフなし

ブリタイ・クリダニク(15)
エキセドル・フォルモ(13)
ミリア・ファリーナ(5)
ワレラ・ナンテス(13)
ロリー・ドセル(13)
コンダ・ブロムコ(13)

マネージャー - ミンメイ
監督A - 映画「小白竜」
社長A
スタッフA - 映画館
警備員A - 映画館
観客A(女) - 映画「小白竜」
観客B(女) - 映画「小白竜」
観客C(男) - 映画「小白竜」
観客D(男) - 映画「小白竜」
観客E - 映画「小白竜」
観客F - 映画「小白竜」
野次馬A - 映画館
野次馬B - 映画館
当直員A - マクロス軍宿舎
パイロットA - マックスの部下
パイロットB - ファランクス・パール中隊長
ゼントラーディ兵士A - ブリタイ艦
ゼントラーディ兵士B - ブリタイ艦
ゼントラーディ兵士C - ブリタイ艦

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スタッフ

脚本 … 大野木寛
絵コンテ … 石黒昇
演出 … 笠原達也
メカ作監 … 板野一郎
キャラ作監 … 美樹本晴彦
原画 … 島崎勝美 山沢実
動画作監 … 野田昭子
動画 … 八谷賢一 岩下啓蔵 中村智津子 大宮ゆり子 荒木英樹

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ノート

輝−未沙、ミンメイ−カイフン、マックス−ミリアという、以後さまざまに発展してゆく3組の男女関係に焦点があてられる。

輝と未沙はとつぜんのトランス・フォーメーションによって市街地の一角に閉じこめられ、みじかい時間だが親しげな会話をかわす。ミンメイとの漂流生活(第4話「リン・ミンメイ」)と状況が対比されている。
輝は未沙から初恋の相手、ライバー少尉のことをはじめて聞かされ(セリフ中に名前は出てこないが)、未沙のもっとも個人的で、繊細な部分にふれたことになる。ライバーのことを知る者は輝と、おそらくはクローディアくらいしかいない。
「そうね、助かっちゃったのね…」という未沙のつぶやきは、輝と一緒に閉じこめられた状況が不思議に心地よかったことを示す。そのことはふだん職務最優先の未沙が、格納庫にもどろうとする輝にもうしばらく自分と一緒にいてくれるようひきとめた行為によっても強調されている。

落下の危機から自分を救ってくれたカイフンの姿を輝とだぶらせるフラッシュ・バックの演出あり(ミンメイは、第5話「トランス・フォーメーション」の一場面を思いだしている)。これによってミンメイは、かつての輝の位置にカイフンが入ってきたことを知る。

マックスとミリアは、じっさいには第24話「グッバイ・ガール」にならないと知りあわないが、映画館のなかで見かけたミリアの姿にマックスが興味を示しており、のちの伏線となっている。

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