第11話「ファースト・コンタクト」

セリフとト書き

[ オープニング ]

ナレーター: 捕らわれた未沙を追って敵艦に飛びこんだ輝たちは、ブリタイの予想しえぬ攻撃をうけた。

[ ブリタイに頭部を破壊された柿崎機が倒れる ]
輝: 柿崎!
未沙: そんなことって…!
マックス: 宇宙に飛びだしたやつが生きてるなんて…。
ブリタイ: うわあああ!
[ ブリタイ、一条機に突進する。ガンポッドを跳ねとばされる輝 ]
輝: うわあ!
[ 未沙、落ちてきた輝のガンポッドを避けようと走りだして転倒する ]
未沙: ああ〜!!
[ 未沙、ゼントラーディ兵士に捕らえられる ]
未沙: [ 袋のなかでもがきながら ]うう〜!
マックス: はっ、中尉!
[ マックス、援護に駆けつけたゼントラーディ兵士たちと交戦 ]
ブリタイ: おおお!
輝: いまだ!
[ 一条機、襲いかかるブリタイに向けて、脚部のブースターを点火する。ともえ投げをうってブリタイを転倒させるが、ブリタイはすぐさま一条機をかかえて投げとばす。格闘の末、一条機は壁の突起に串刺しなる ]
輝: うわ〜!!
[ 身動きのとれない輝、レーザー機銃で最後の抵抗を試みるが失敗。ブリタイ、手で一条機の頭部を握りつぶす ]
輝: うわあ。ば、化けものかよ! うわあ!
[ ブリタイ、一条機の胸部装甲をむしりとる ]
ブリタイ: えいっ、んんん〜!
[ ブリタイ、隙間からコクピットの輝の姿を見てほくそ笑む ]
ブリタイ: ふんっ!
輝: うわあ、あああ!!
[ 恐怖する輝は脱出用コックを引き、座席ごと機外に射出される ]
ブリタイ: おっ!
[ ブリタイ、ジャンプして輝をとらえる ]
ブリタイ: ほいさ。
マックス: 隊長!
[ 一条機、ブリタイを巻きこんで爆発。ブリタイ艦の装甲に穴があき、マックス機は艦外に放出される。ブリタイ、倒れている ]
ブリタイ: ううう…。
ゼントラーディ兵士A: だいじょうぶですか?
ゼントラーディ兵士B: おけがは!
ブリタイ: おまえたちとつくりがちがう。
[ ブリタイ、起きあがる ]
ゼントラーディ兵士A: さすが。
ブリタイ: ふんっ!
[ ブリタイ、輝を捕らえている手をひらく。輝、気をうしなっている。のぞきこむゼントラーディ兵士たち ]
ブリタイ: これが敵艦のマイクローンか。

[ ブリタイ艦ブリッジ。輝、未沙、柿崎、捕虜となって巨大なカプセルに入れられている。モニタに未沙が映る ]
ブリタイ: んん、確かに女のようだな。
エキセドル: はい、電子分析の結果ではまちがいありません。しかも捕虜の身体は骨格、細胞、遺伝子にいたるまで、われわれのマイクローンとほとんど差はありません。
ブリタイ: ふむ。
エキセドル: 恐ろしいことです。
[ 輝、気がつく ]
エキセドル: お、気がついたようですな。
ブリタイ: んん。

[ 捕虜カプセル ]
輝: 柿崎、柿崎!
柿崎: [ 寝ぼけている ]んん、隊長、まだ食べられますよ。
輝: んん、まったく…!
未沙: うう…。
[ 未沙、気がつく ]
未沙: 一条くん。
輝: どうやら巨人たちにつかまっちゃったみたいですね。
未沙: そう。[ カプセルのガラス越しに外を見て ]捕虜か…。
輝: 中尉が無茶な偵察をするからですよ。
未沙: ん、そんな…!
輝: キャッツ・アイのパイロットは?
未沙: ん、死んだわ…。小惑星の破片にあたって。
輝: 宇宙空間をあまく見るからこうなるんですよ。女はね、軍人なんかやらずに、料理をしたり、歌でも歌っているほうが、よっぽどかわいげがあっていいですよ。
未沙: 上官に向かってなによ。あたしだって、そのくらいできます。
輝: [ バカにして ]ふ〜ん、それはそれは。
未沙: あなたねえ!

[ ブリタイ艦ブリッジ ]
ブリタイ: なにか争いごとをしているようだな。
エキセドル: はい、男と女がひとつ所にいあわせれば、かならず災いが生じるといいつたえられております。これはその前兆かもしれません。
ブリタイ: 災いか。そうかもしれんなあ。もうよい、消せ。[ モニタが消える ]ああ、やつらを見ていると頭が痛くなってくる。う、ああ…!
エキセドル: 同感ですな。これはもはや、われわれだけで処理できる問題ではありません。
ブリタイ: ああ、基幹艦隊に連絡したほうがよさそうだな。
エキセドル: ボドル・ザー閣下は慎重なお方です。できれば直接引きわたしたほうが得策かと…。
ブリタイ: ふむ。…よかろう。

[ 捕虜カプセル ]
未沙: だいたいあなたは、あたしの護衛が任務でしょう。バトロイドに乗っていながら、生身の敵にやられるなんて、それでよく小隊長がつとまるわね!
輝: んん、冗談じゃない。やつらは真空中でも死なないような、化けものなんだぜ。
未沙: んっ、ああ…。
[ 輝と未沙、ふたりで窓の外の宇宙に眼をやる ]
未沙: いったいどうなってるのかしら。
輝: こっちが聞きたいですよ。
柿崎: うあ、あああ…。
[ 柿崎、気がつく ]
柿崎: いや、隊長も中尉もご無事でしたか。

[ マックス機、ブリタイ艦にとりついている ]
マックス: 巨人さんたちにはろくな修理兵もいないのかな。
[ マックス、ブリタイ艦の装甲にあいた穴を見つけて、艦内に侵入する ]

[ 捕虜カプセル内。柿崎、未沙が撮影している小型ビデオを指さして ]
柿崎: これは?
未沙: マイクロビデオよ。ちいさなものだから、見つけられずにすんだみたい。
柿崎: 身体が大きいってのもよし悪しですね。
輝: ビデオなんか、撮ってもどうにもならないのに。
未沙: まだ逃げだせないって決まったわけじゃないでしょう。
柿崎: そうですよ隊長。

[ ブリタイ艦ブリッジ ]
ゼントラーディ兵士C: 空間転移、座標算出完了。
ゼントラーディ兵士D: 全フォールド・システム、長距離転移、準備完了。
ブリタイ: 目標、ボドル基幹艦隊空域。フォールド航行を開始せよ!
[ ブリタイ艦、フォールドする ]

[ 捕虜カプセル ]
未沙: フォールド航行をしてる。
輝: なんだって!?

[ マクロス・ブリッジ ]
ヴァネッサ: フォールド反応探知。敵艦1隻、フォールドした模様です。
グローバル: 1隻だけか。位置は?
ヴァネッサ: XP−128、YP−175。早瀬中尉が偵察に向かった付近です。
グローバル: う〜ん、早瀬くんからは以前連絡なしか。
シャミー: はい…。護衛のバーミリオン小隊も応答ありません。
グローバル: そうか…、やられたかな…。
シャミー: そんな! 早瀬中尉が死んじゃうなんて…。
グローバル: 応答がないということは…。
クローディア: 通信機の故障かもしれないでしょう。

[ マクロス市街地。ミンメイ、友人ふたりと笑いながら歩いてくる ]
少女A: デビューまであと10日ね。
リコ: すごいわ、歌手になるなんて。こんどサインしてもらわなくっちゃ。
ミンメイ: やあだ、リコったら。あ、フォッカー少佐。
[ フォッカー、「娘娘」の前に立っている ]
フォッカー: よう。
ミンメイ: こんにちは。
少女A: こんにちは。
リコ: こんにちは。
ミンメイ: 輝は一緒じゃ…?
フォッカー: それが…、[ ミンメイの肩に手をおいて ]落ちついて聞いてくれ。輝のやつ、もどってこないんだ。
ミンメイ: もどってこないって?
フォッカー: 偵察機の護衛に出たまま、行方不明になってな。
ミンメイ: そんな!
フォッカー: い、いやあ、まだ死んだって決まったわけじゃ…。
ミンメイ: やめて! [ フォッカーの手を振りきって ]もう聞きたくないわ。
[ ミンメイ、走りさる ]
少女A: あ、ミンメイ!
フォッカー: そっとしておけ。
[ ミンメイ、通行人とぶつかりそうになる ]
通行人A: おう!

[ ミンメイは以前、トランス・フォーメーションにはじめて遭遇し、輝に助けられた高台にやってくる ]
ミンメイ: [ 街を見おろしながら、独白 ]輝…。

[ 捕虜カプセル ]
柿崎: いったい、どこまで行くんでしょうね。
輝: さあな。巨人たちの星にでも行くのかな。
未沙: それにしても長いわね。[ 腕時計を見る ]1時間ちかくもフォールドしてるなんて。マクロスじゃ、10日くらいたったころかしら。
輝: 10日!?
柿崎: 10日!?
未沙: ええ。フォールド中は時間がゆっくりすすむのよ。
柿崎: 10日か…。ミンメイさんのデビュー、見られませんね。
輝: ああ。[ 独白 ]ミンメイのデビューか。

[ 輝の回想。マクロスの閉鎖区画、「ミス・マクロス・コンテスト」、地球統合軍士官の制服を着たミンメイをあしらった志願兵募集ポスターの撮影、テレビのワイドショーでのインタビュー ]
司会者A: こんどは歌手もおやりになるそうですね。
ミンメイ: ええ、あたし、ちいさいころから歌が好きでしたから、一生懸命がんばりたいと思います。みなさんも応援してください!
[ 輝の回想。公園でのデート ]
輝: で、どんな曲?
ミンメイ: うふふふ。それがおっかしいのよ。「私の彼はパイロット」ってタイトルなの。冗談みたい!
輝: 冗談?
ミンメイ: うふふふ。こんどゆっくり聴かせてあげるわね。
[ 輝の回想。ミンメイとの電話 ]
輝: ずいぶんおいそがしいようで。
ミンメイ: ほんと、寝る間もないくらい。
輝: そうか。来週の日曜日、休暇がもらえそうなんだけど、どこへも行けないかなあ?
ミンメイ: 残念でした。来週の日曜は、わたしのデビューの日よ。
輝: デビューって、決まったの!
ミンメイ: ええ。こんどの日曜のサンデー・ショーに出してもらうことになったの。
輝: そうかあ。
ミンメイ: 夜の9時から、かならず見てね。
輝: ああ、きっと約束するよ。
ミンメイ: きっとよ!
[ 「きっとよ!」がこだまして、輝の回想が終わる ]
輝: [ 独白 ]結局、約束は果たせないってわけか。

[ ブリタイ艦、デフォールドする。捕虜カプセル内 ]
未沙: フォールド航行を解除したわ。
輝: 目的地に着いたのかな?
柿崎: うおっ!
輝: うわ!
未沙: ああ!
[ 輝、未沙、柿崎、船外の大艦隊を見て驚く ]
輝: これが、ぜんぶ宇宙船…!?
未沙: こんなすごい艦隊なんて。
[ 未沙、マイクロビデオで撮影する ]
輝: [ 指をさして ]あれは!?
柿崎: 局地戦か?
輝: いや、近寄ればそうとうの規模だ。
未沙: 地球を、まるごと飲みこむくらいにね。
[ ブリタイ艦の前方に、ボドル旗艦が見えてくる ]

[ アイキャッチ ]

[ ブリタイ艦、ボドル旗艦内部に入ってゆく。ブリタイ艦に潜入したマックス、通路でゼントラーディ兵士が近づいてくるのに気づく ]
マックス: おっと。
[ マックス機、手近なドアを開けてなかに入る ]
マックス: ほう。[ 意外なものを見つけて ]ああ!
[ 便座の前にたたずむマックス機。やがてトイレのドアが開き、ゼントラーディ兵士が用を足しに入ってくる ]
マックス: ああっ!
ゼントラーディ兵士E: おおっ!
[ マックス機、すばやくゼントラーディ兵士Eにひと蹴りあびせる ]
ゼントラーディ兵士E: うえっ!
[ マックス機、気絶させたゼントラーディ兵士Eをかかえてふたたびドアを閉じる。トイレのカギを閉める ]

[ ブリタイ以下、エキセドル、「青い風」3人組がモニタ越しにボドル・ザーに報告をしている ]
ロリー: 敵艦の女性マイクローンは、身体の大半を露出させた軍服を着用して奇妙な行動をおこない、それを見てるとなにか胸のうちが熱くなるような気持ちがしました。
ワレラ: そのとおりであります。
コンダ: そのとおりであります。
ボドル・ザー: ふむ、まぼろしの反応兵器の存在、男と女がひとつ所に乗りこむ戦艦…。われわれはよからぬものと接触したのかもしれんな。
ブリタイ: よからぬもの。
ボドル・ザー: そうだ。捕虜との会見、おまえの船でおこなう。会見室を用意せよ。
ブリタイ: 閣下がわざわざわたしくの船に。
ボドル・ザー: 異星のマイクローンをメインコアに上陸させるわけにはゆかぬ。
ブリタイ: わかりました。

[ ボドル・ザーの乗る小型機が発進する ]
ボドル・ザー: [ 独白 ]ふむう、まさかプロトカルチャーではあるまいな。

[ ブリタイ艦会見室。テーブルに輝、未沙、柿崎がのっている。左手にブリタイ、右手にエキセドル、後方に「青い風」の3名。未沙は気づかれないようにマイクロビデオの録画スイッチを押す。やがてボドル・ザーが正面にあらわれる。ブリタイ、エキセドル、敬礼して全員着席する ]
ボドル・ザー: わたしはゼントラーディ軍第118基幹艦隊司令長官ボドル・ザーだ。おまえたちに訊ねたいことがある。
未沙: 言葉がわかる。
輝: どうなってんだ。
エキセドル: 閣下。感応翻訳装置はうまく作動しているようです。
ボドル・ザー: よし。おまえたちはいつから監察軍と接触をしたのだ。
未沙: 「監察軍」?
柿崎: そんな軍隊ありましたっけ、隊長?
輝: 俺だって、軍に入ったばっかりだから知らないよ。
エキセドル: 軍に入ったばかり!
ブリタイ: 軍に入る前はいったいなにをしていたんだ。
柿崎: なにって、民間人だけど。
ブリタイ: 「民間人」!
ボドル・ザー: 民間人とはなんなのだ。
輝: 戦争に行かない人間のことだよ。
ボドル・ザー: 戦争をしない人間だと。
エキセドル: ば、ばかな。宇宙は戦いで満ちあふれ、戦いあるところにこそ命があるはずだ。
未沙: [ 独白 ]「戦いあるところにこそ命がある」。
ボドル・ザー: んん、どうやら質問をかえる必要がありそうだな。きさまらの船に戦争をしない人間がほんとうにいるのか? そしてなぜ男と女が、一緒にいられるのだ。
柿崎: 男と女が一緒にいて、なに…。
未沙: [ 制止する ]柿崎くん。これ以上、質問にこたえるつもりはありません。
ボドル・ザー: うん?

[ ブリタイ艦トイレ内。マックス機、捕らえたゼントラーディ兵士Eの軍服をまとう ]
マックス: ま、これでも着てないよりはましか。
[ トイレから出る。通路でもうひとりのゼントラーディ兵士Fとすれちがう ]
ゼントラーディ兵士F: ん?
[ ゼントラーディ兵士F、すこし振りかえるが気にせず歩いてゆく ]
マックス: ふう。

[ ブリタイ艦会見室 ]
ボドル・ザー: どうやらおまえが指揮官か。
未沙: うっ…。
ボドル・ザー: ふん、おまえたちは自分らの立場がわかっておらんようだ。
[ ボドル・ザーが右手で合図すると、テーブルのまわりに基幹艦隊が映しだされる ]
ボドル・ザー: われわれには、おまえたちの船や惑星を一瞬にして滅ぼすだけの戦力があるのだ。
未沙: ああ…。
輝: ああ。
ボドル・ザー: 見るがよい、あの星を。
[ 基幹艦隊がある惑星を砲撃する。一瞬で惑星はクレーターだけの星にかわる。驚いて声も出ない地球人3名 ]
未沙: なんてことを…!
ボドル・ザー: ふっふふふ。おまえたちの惑星がいまの星のようになってもよいのかな?
未沙: それは…、ん。
ボドル・ザー: どうした。
未沙: [ 独白 ]おかしいわ。これだけの力があるのに、なんでいままでマクロスや地球を全面攻撃してこないのかしら…?
ボドル・ザー: もういちど訊ねる。民間人は実在するのか。そして男と女が、どうしておなじ船にいられるのだ。
未沙: [ 独白 ]民間人、男と女…。はっ、あたしたちには、かれらの持っていないなにかがあるのかもしれない。
ボドル・ザー: こたえねば、おまえたちの船や惑星を滅ぼしてやる。
未沙: できるものならやってごらんなさい。
ボドル・ザー: なんだと?
輝: 中尉!
未沙: [ 輝を見て ]あたしにまかせて。[ ボドル・ザーに向かって ]あたしたちには、あなたがたの知らない特別な力があります!
ボドル・ザー: だまれっ!
[ ボドル・ザー、テーブルを手でたたく。衝撃で3名はよろめく ]
未沙: うっ!
輝: うわっは!
柿崎: うわっ!
[ ボドル・ザー、未沙に右手をのばす ]
輝: 中尉!
未沙: ああ〜っ!
[ 未沙、ボドル・ザーの手に捕らえられる ]
柿崎: な、なにしやがるんだ。
ボドル・ザー: 動くな! ふふん、やわらかいな。こんなひよわなマイクローンがわれわれに逆らうとはな。
[ ボドル・ザー、未沙を顔の前に引きよせ ]
ボドル・ザー: なぜわざわざマイクローンになったのだ。
未沙: ああ…。[ 口をつぐむ ]
ボドル・ザー: マイクローンとなったわけをいわねば殺す!
[ ボドル・ザー、未沙をにぎる手の力を強める ]
未沙: [ 苦しむ ]ん…、うっ!
輝: やめろ! 俺たちは生まれたときからこの身体だ。
ボドル・ザー: 生まれたときから。
エキセドル: おまえたちはいったい、どこから生まれるのだ?
輝: 母親に決まってるだろ!
コンダ: 「母親」?
柿崎: おんな親のことだよ。
エキセドル: 女から!? おまえたちは女から生まれたというのか?
ブリタイ: いったいどうやって?
柿崎: どうやって…。そんなことも知らないのかよ。男と女が愛しあえば、子どもができるんだよ。
ブリタイ: 「愛しあう」。どうやるんだ?
柿崎: キスしたり、抱きあったり。
ボドル・ザー: それでマイクローンが生まれるというのか。[ 輝と柿崎に ]そこのふたり、キスというものをやってみろ!
輝: 冗談じゃない、男どうしでできるかよ!
ボドル・ザー: やらねばおまえたちもにぎりつぶしてやる。
未沙: 待って! あたしがやります。
ボドル・ザー: おまえが? よかろう。
[ ボドル・ザー、未沙を卓上にもどす ]
未沙: [ ふらつく ]ああ…。
[ 未沙、輝に近づく ]
未沙: 一条少尉、あたしにキスをして。
輝: ええ!?
未沙: [ 小声で ]これは敵の反応を見るチャンスなのよ。
輝: [ 小声で ]だったら柿崎とでもしてくれよ。
未沙: ん。
[ 未沙、柿崎をすこし見て ]
未沙: [ 小声で ]あなたのほうがまだマシよ。
輝: [ 小声で ]そんなこといっても…。
ボドル・ザー: はやくしろ!
未沙: これは命令よ、はやく!
輝: ん、わかったよっ。
未沙: [ 輝のほうに一歩近づくとともに、ボドル・ザーを見て ]やります。
ボドル・ザー: うむ。
[ 未沙、眼をとじる ]
輝: [ 独白 ]ごめんよ、ミンメイ。
[ 輝と未沙、くちづけする。驚愕するゼントラーディ側 ]
ボドル・ザー: おおおっ…!!
青い風: あああっ…!!
ボドル・ザー: プロトカルチャー!
輝: プロトカルチャー?
未沙: プロトカルチャー?
輝: どうなってんだ?
ボドル・ザー: うう、誰か、この者たちをさっさと連れだせえ!

[ ブリタイ艦内を歩くマックス機。前方を横切った貨車に輝、未沙、柿崎が乗せられて運ばれてゆくのを発見する ]
マックス: 隊長たちだ。
[ マックス、貨車のあとを追う ]

[ 輝、未沙、柿崎は営倉らしき小部屋に入れられる。部屋の角にかたまってすわりこむ3名 ]
柿崎: だけどおかしいですね。隊長と中尉がキスしたぐらいで、あの連中あんなに驚くなんて。
未沙: ほんとうね。星のひとつやふたつ、あっという間に壊せるくらいの力があるのにねえ。
輝: あのときいってた、「プロトカルチャー」っていったいなんなんだろう。
未沙: んん、わからないわ。マクロスにもどれて、このデータを分析できればねえ。
柿崎: マクロスにもどれれば、か。
未沙: ただわかってるのは、かれらの世界には民間人はいないし、男と女はべつべつに暮らしていて、子どもも生まれないってことだけ。
柿崎: 女の子と一緒に暮らせないような世界で、死にたくないもんですな、隊長。
輝: ああ。

[ 会見室 ]
ボドル・ザー: いまのはなんだったのだ…。
ブリタイ: なぜあのていどのことを見ただけで、これほどのショックをうけるのでしょうか?
エキセドル: われわれの眠っていた、潜在意識が反応するのかもしれません。
ボドル・ザー: 潜在意識か。
ロリー: このあいだの怪電波のときとおなじような気持ちがしたなあ。
コンダ: ああ。あのとき以上かもな。
ロリー: ボドル・ザー閣下。
ボドル・ザー: なんだ。
ロリー: プロトカルチャーとはいったいなんなんですか。
ボドル・ザー: うむ。これから話すことを他言した場合は、即刻消去刑に処する。よいな。
青い風: はっ。
ボドル・ザー: プロトカルチャーとは、われわれの遠い祖先のことだ。
青い風: 祖先!?
ボドル・ザー: そうだ。プロトカルチャーの時代にはわれわれ人間の身体はマイクローンのサイズしかなかった。男と女がともに暮らし、「文化」というものがあったと伝えられている。
コンダ: 「文化」!
ボドル・ザー: そうだ。しかしそれがどのような世界であったかは、プロトカルチャーたちの残していた記録がうしなわれたため、くわしくはわからんのだ。
ロリー: うしなわれた。
ボドル・ザー: プロトカルチャーと接触した艦隊はいつの間にか戦う力をうしない、滅ぼされてしまうということだ。
ロリー: なぜです?
ボドル・ザー: それがわかれば苦労はせん。
ワレラ: 男と女がともに暮らす世界。
ロリー: 愛しあうとかいう行動に、その秘密が隠されているとでもいうのでしょうか。 

[ ミンメイ、歌手デビュー当日の控室にて ]
ミンメイ: [ 独白 ]結局、帰ってこないのね、輝…。
スタッフA: ミンメイさん、本番です!
ミンメイ: は〜い!

司会者B: さて、つづきましては期待の新人が登場いたします。第1回「ミス・マクロス・コンテスト」優勝に輝くわれらがアイドル、リン・ミンメイさん! 歌はもちろんデビュー曲「私の彼はパイロット」です。どうぞ!
[ ミンメイ、「 私の彼はパイロット」を歌う。観客のなかには、すでにミンメイの名を書いた横断幕を持ちこんで応援するファンがいる。場面がかわって、プロメテウスの甲板をながめるフォッカーに近づいて寄りそうクローディアと、遠い眼をして沈黙しているフォッカーの姿。歌うミンメイ ]

[ 次回予告 ]

ナレーター: 輝、未沙、マックス、柿崎の4人は、ゼントラーディの基幹艦隊で得た貴重な情報を味方に知らせるため、脱走をくわだてた。しかし位置もさだかでない敵の大艦隊のただなかにあって、マクロスへ帰艦できる望みはゼロに等しかった。
次回、「超時空要塞マクロス」、「ビッグ・エスケープ」。

[ エンディング ]

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登場する人びと(登場回数)

一条輝(11)
リン・ミンメイ(11)
早瀬未沙(11)

ブルーノ・J.グローバル(11)
クローディア・ラサール(11)
ロイ・フォッカー(11)
マクシミリアン・ジーナス(マックス)(4)
柿崎速雄(4)
ヴァネッサ・レイアード(11)
シャミー・ミリオム(10)

ボドル・ザー(初)
ブリタイ・クリダニク(10)
エキセドル・フォルモ(9)
ワレラ・ナンテス(3)
ロリー・ドセル(3)
コンダ・ブロムコ(3)

リコ - ミンメイの友人
少女A - ミンメイの友人

通行人A - マクロス市街地
司会者A - テレビのワイド・ショー
司会者B - テレビ番組「サンデー・ショー」
スタッフA - MBSマクロス放送局
ゼントラーディ兵士A - ブリタイ艦
ゼントラーディ兵士B - ブリタイ艦
ゼントラーディ兵士C - ブリタイ艦
ゼントラーディ兵士D - ブリタイ艦
ゼントラーディ兵士E - トイレに入ろうとしてマックス機と遭遇
ゼントラーディ兵士F - ブリタイ艦

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スタッフ

脚本 … 富田祐弘
絵コンテ … 黒河影次
演出 … 高山文彦
キャラ作監 … 美樹本晴彦
原画 … 島田英明 山崎茂 門上洋子 内田義弘 アニメ・トロトロ
動画 … 福田浩一 山本勝也 三坂徹 本猪木浩明 森川定美 アニメ・トロトロ

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ノート

ゼントラーディ軍の実態があきらかになり、「プロトカルチャー」、「文化」、「男と女」といった、こんごの展開に重要な意味をもつキーワードがいくつも出てくる重要回。

ゼントラーディ軍第118基幹艦隊(ボドル基幹艦隊)司令長官ボドル・ザーが初登場。

ブリタイ艦での格闘戦のマックス機が、一瞬、複座式のVF−1Dバルキリーになっている。色の塗りまちがい。

輝が未沙を揶揄した「女はね、軍人なんかやらずに、料理をしたり、歌でも歌っているほうが、よっぽどかわいげがあっていいですよ」という発言は、内容そのものとしては女性差別的で噴飯ものだが、これは輝の、生来的に軍隊や戦闘を嫌悪している心情から出た言葉としてみるべき。また幼少期に母親を亡くしている輝にとっての女性像が、きわめて保守的なものだったと想像することはむずかしくない。

未沙が行方不明になっているあいだ、マクロスの航空管制官はシャミーがつとめた。シャミーの背丈では上部コンソールに手がとどかないため、足台の上に立っている。

宇宙服を着た未沙のシルエットはたいそう美しい。しぐさや表情にも女らしさが強調されている。輝と未沙のキス・シーンは「マクロス」の名場面のひとつとなっている。

本話は過密スケジュールのなかで動画制作が間にあわず、静止画の連続とギクシャクした動きを露呈して「紙芝居」と批判をうけた。その後、再放送時にはいくらか修正されたものの痕跡は残っている。放送初回を見ていない世代が増えるにつれて、むしろ修正をうけていない第11話のほうがまぼろしの存在として、稀少価値が付帯するようになった。

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