第4話「リン・ミンメイ」

セリフとト書き

[ オープニング ]

ナレーター: 異星人の攻撃を避けるべく急遽発進したマクロスは、月の裏側へ超空間転移しようとして失敗。基地の島ともども月の裏側ならぬ冥王星軌道の宇宙空間へ送りこまれてしまった。

[ マクロス・ブリッジ ]
グローバル: [ 通信機に向かって指示を出す ]シェルターを最優先で引きいれろ。なかには街の住民が避難しているんだ。
未沙: 艦長、プロメテウスもダイダロスも応答ありません。生存者は…。
グローバル: やはりなあ…。むこうはただの空母。宇宙を飛ぶようにはできていないからな。[ なにかを思いついて ]早瀬くん、作業艇に連絡を出してくれ、空母をこちらに引っぱってこいと。
未沙: まさか! アームド1、アームド2のかわりにドッキングさせるおつもりですか?
グローバル: うむ。艦載兵器はまだ使えるはずだ。
未沙: うまくいきますかしら。
グローバル: 作業員の努力に期待している。[ 宇宙空間にただよっている街の残骸を見て ]シェルターの収容が終わりしだい、外に浮いているものは一切合切とりこむんだ。

ナレーター: マクロスの進宙式を見物にきて騒ぎに巻きこまれたエアレーサー、一条輝は、途中で救いだした少女リン・ミンメイとともにマクロスの艦内へ飛びこみ、九死に一生を得た。しかし…。

輝: ようし。[ 逆さまに吊られたファンレーサーによじのぼる ]おっ、おしっ、おっ、とっ。[ ファンレーサーにからんだロープを引っぱる ]えいっとお! とお! えい! う〜っと!
ミンメイ: ねえ、もうあきらめたら? 人を呼んで降ろしてもらったほうが、はやいんじゃない?
輝: んん…。[ コクピットをいじる ]あ、ちっ!
ミンメイ: どうしたの?
輝: 通信機が壊れてら。
ミンメイ: ああ…。
[ 輝、腕時計を操作する ]
ミンメイ: なあに、それ?
輝: コンパス。
ミンメイ: コンパスって、こんなかたちしてるんじゃない? [ 顔の前で人さし指のさきをくっつけて、三角形をつくる ]
輝: ええ!? ぶはははは、はははは。
ミンメイ: コンパスって、マルを書くコンパスじゃなかったの…。
[ 輝とミンメイ、歩きはじめる ]
輝: 艦内は広いからね。こいつがあれば、レーサーの位置がすぐわかるってわけさ。
ミンメイ: まわりじゅうパイプばかり〜。
輝: ああ。エネルギー・ブロックに近いせいかな。
[ ミンメイ、パイプから滴る液体にさわる ]
ミンメイ: あちっ!
輝: ああ!
ミンメイ: あ、なんともないわ、ほらっ、ちょっと熱かっただけよ。
輝: 気をつけなくちゃあぶないよ。
ミンメイ: うん!
[ 歩きはじめた輝がつまずく ]
輝: うわっ、たあ、たたた。
ミンメイ: ああ、ほらほら気をつけて。
[ 輝、部屋のハッチを開ける ]
輝: 4つめも、ダメか。
ミンメイ: 道、まちがえたんじゃない?
輝: ブリッジのほうに進んでるはずなんだけど…。[ コンパスを見る ]これで、正しいよ、やっぱり。
ミンメイ: 行こう。
輝: うん。

[ マクロス・ブリッジ ]
クローディア: 民間人を捜してくれですって!?
フォッカー: そ、一条輝っていってな、俺の後輩なんだ。
クローディア: あなたね、冗談も時と場合を考えて…。
[ グローバルが割りこんでくる ]
グローバル: クローディアくん。
クローディア: はっ。
[ グローバル、通信用受話器を手にとる ]
グローバル: フォッカー少佐、グローバル艦長だ。きみも知っているとは思うが、現在本艦には5万人を超える民間人が避難している。いま敵の襲撃をうけたらどういう事態におちいるかは…。
フォッカー: [ 怒って ]わかりました! 5万人のほうがひとりの命より大事だってわけですねえ! [ 乱暴に通信を切る ]
グローバル: ああ、いやあ、あの…。
[ グローバル艦長、通信機をもどす ]
クローディア: わからずや!

[ マクロス閉鎖区画 ]
ミンメイ: ねえ、あっち、明るく見えない?
輝: えっ!?
[ 前方のドアの奥が明るく見える ]
輝: ほんとだ、やった〜! [ 走りだす ]
ミンメイ: やった〜! ふふふふ。
[ 入口をくぐると巨大な部屋。ブリッジではない ]
ミンメイ: あそこからのぼれそうよ。
輝: うん。
[ ふたりは積みあがった荷物をのぼる。輝、ミンメイに手を貸してやる。ミンメイは奥に進むが、輝はかたわらの巨大なハッチを見て ]
輝: 巨人用のエア・ロックか…。
ミンメイ: きゃ〜!!
輝: あっ! [ 駆けだす ] えしっ、えしっ…。どうしたの!? ああ!?
[ 輝とミンメイ、宇宙空間にさまざまな残骸が浮いているのを見る ]
ミンメイ: ねえ、いったいどうなっちゃったの?
輝: 悪い夢でも見てるんじゃない?

[ マクロス・ブリッジ ]
クローディア: [ 通信機に向かって ]艦長は、ただいま艦内視察中。以上。
キム: [ コーヒーを入れて ]コーヒー入りましたよ。
クローディア: [ ため息 ]ああ。
未沙: [ ため息 ]はあ。
クローディア: [ 未沙の肩に手をおいて ]んふ。
ヴァネッサ: [ コーヒーを飲み、満足して ]んん!
クローディア: まったく艦長がフォールドなんかするから。
未沙: 地球と連絡することさえできない艦に、5万人以上の避難民。こんなところを攻撃されたらおしまいねえ。
ヴァネッサ: フォールド通信ができなくても、通常電波で時間さえかければ…。
未沙: そう、地球の統合軍本部と連絡できる。でも、敵にもこちらの居場所を教えることになるわね。
ヴァネッサ: そうか…。
シャミー: 早瀬中尉、RX−24ブロックが、避難場所の指示をもとめています。
未沙: [ 椅子から立ちあがって ]は〜。
クローディア: コーヒー飲んでる暇もない!

[ マクロス閉鎖区画 ]
輝: どう、足の痛みは?
ミンメイ: 足はもうだいじょうぶだけど、喉がカラカラ。
輝: 水かあ。食いものならレーサーにもどればすこしはあるんだけど。[ 途中で見たパイプの水のことを思いだす ]水が飲めるかもしれないよ! ちょっと待ってて。[ 陰から鉄パイプをさがしだして持ってくる ]準備、OK。
[ 輝、パイプと壁のあいだに鉄パイプを差しこんで、壊そうとする ]
輝: んんっ、とっ、ういしょ、ううう…。
[ ミンメイ、靴を脱いで輝に手を貸す ]
ミンメイ: よいしょ。
輝: あれっ!? よいしょ、とお…。
ミンメイ: ううう…。
[ パイプが壊れて水が噴きだす。輝とミンメイは後ろむきに倒れる ]
輝: うわは〜、とっ!
ミンメイ: ああっ!
[ ミンメイ、噴きでる水をあびて ]
ミンメイ: うわあ、おいしい。気持ちいい! そうだ、わたし、シャワーあびよ。
輝: ええ!? いま、ここで?
ミンメイ: そうよ。身体じゅう汗かいちゃったもん。[ 背中のファスナーに手をやるが、輝が見ているのに気づいて ]あん?
輝: あ、あ、あのう、俺、あっち行ってたほうが…、いい、かな?
ミンメイ: うれしいわ、気をつかっていただいて。ついでにそのへんに、ついたてでもこしらえてくれるとありがたいんだけど?
輝: はいはい。[ ついたてを立てる ]えいっ、とっ、このっ。これでいいか?
ミンメイ: ありがとう!
[ 輝、隙間からのぞこうとする ]
ミンメイ: きゃあん。
輝: あっ! どうした、ミンメイ!? [ ついたてをどけてミンメイに駆けよるが、ミンメイには何事もない ]うわ、あ、あれえ?
ミンメイ: [ ふざけて ]きゃ〜あ。
輝: ったくう。[ 去る ]
[ ミンメイ、シャワーをあびる ]
ミンメイ: んふふふ。ちょっとからかいすぎたかな。輝、ごめんね。[ 返事がない ]輝、どうしたの? 怒ったの? 輝、返事して! [ ついたての隙間から輝が着がえを差しいれる ]ああん!
輝: 俺の作業着が見つかったよ。よかったらそれに着がえたら?

[ ミンメイ、着がえがすんで ]
ミンメイ: うわあ、さっぱりしたわ。輝もあびてきたら?
輝: もちろんそうするよ。
ミンメイ: この服ダボダボ。[ ファンレーサーのキャノピーにうつった自分の姿にたいして舌を出す ]ビ〜だ!
輝: 携帯用の食料も見つかった。ひとつ食べないか?
[ 缶詰をミンメイにほうる ]
ミンメイ: [ うけとめて ]わあ、すてき。
輝: 腹、すいてるもんなあ。[ 食べはじめる ]ん、うお、うまい、うま〜い…!
ミンメイ: ねえ、そんなにいっぺんに食べちゃっていいの?
輝: 平気、平気。明日は出口が見つかるって。
ミンメイ: もし見つかんなかったら?
輝: たかだか1キロくらいの船んなかだ。平気だと思うよ。
ミンメイ: でも、さっきもあんなに歩いて、とうとうダメだったじゃない。
輝: だから明日はちゃんと地図をつくってだねえ…! 俺、食欲なくなっちゃった。
ミンメイ: いじけた?
輝: 誰が!
ミンメイ: ふふっ、あははは、ふふふふ…。

[ それから時間がたって、輝とミンメイは横にならんで座っている ]
ミンメイ: よく考えたら、1日だったんだ。
輝: ほんと。先輩に呼ばれてマクロスを見にきて、宇宙人に襲われたと思ったら、いつの間にか宇宙のマクロスのなか…。
ミンメイ: おばさんたち、どうしたかな…。
輝: シェルターに逃げてれば、だいじょうぶと思うよ。
ミンメイ: そうねえ。兵隊さんたちが守ってくれてるわね。
輝: 兵隊さんたちか。
[ ミンメイは眠くなって、輝の肩にもたれかかる ]
輝: ん、ちょっとこれはまずいんじゃない? こんなとこで寝ると。風邪ひいちゃうぞ。
[ 輝、ミンメイの肩に手をのばす。と同時にネズミが、ミンメイの肩を駆けおりる ]
ミンメイ: きゃっ!
輝: おっとっと…。
[ 輝、のばした手をひっこめる ]
ミンメイ: [ 怒って ]ふ〜ん、おたく、そういう人だったの。知らなかったわ、まったく。
[ ミンメイ、輝から離れる ]
輝: と、ちょっと待てよ、あれはネズミが…。
ミンメイ: ふんっ!
[ ミンメイ、近くにある布きれをめくるとネズミが2匹あらわれる ]
ミンメイ: あん! [ 輝のもとに駆けよって ]ネズミ〜!
輝: だからいったろ。船なんだから人間よりよほどさきに住みついてんのさ。
ミンメイ: わたし、ネズミ苦手なの。はやく追っぱらって。
輝: [ 布きれを見て ]ひょっとすると、あれはネズミたちのおうちだったんじゃないかな。
ミンメイ: やだ〜。
輝: ネズミたちと明日わけを話して、ベッドをわけてもらいますか。
[ 輝が話しているうちに、ミンメイはもういちど肩に身を寄せてきて寝てしまう。輝も眼を閉じる ]

[ アイキャッチ ]

[ マクロス閉鎖区画 ]
輝: [ 手製の地図をながめながら ]これがここ行って…、んん?
[ ミンメイ、がれきを使って、ファンレーサーの機体に2本のキズをつける ]
輝: ちょっと!
ミンメイ: 今日で漂流生活2日めのしるし。いいアイデアでしょ?
輝: [ しぶしぶ同意 ]あ、ああ。じゃあ、行ってくる。
ミンメイ: いってらっしゃい。
輝: [ 独白 ]人の大事なレーサーを。ったく。
[ 輝、パイプのいり組んだ通路をとおるが、頭をぶつける ]
輝: いてっ! ううう。[ またぶつける ]いてえ、つううう。
[ 時間がたって、輝、もどってくる ]
ミンメイ: どうだった?
[ 輝、両手をあげて不首尾のジェスチャー ]
輝: ふう。
[ ミンメイが夕飯の仕度をしている ]
輝: んん〜、いいにおい。
ミンメイ: こうすれば食料、もっと保たせられるでしょう?
輝: さすが中華料理店の娘。
ミンメイ: やだあ、あそこは叔母さんち。ときどき遊びに行ってるの。
輝: へえ、じゃあきみの家は?
ミンメイ: 横浜。中華街でレストランやってるの。[ 食べものを皿に盛りつけて差しだす ]はいっ!
輝: なあんだ、てっきり中華料理屋の…、え!?

[ ファンレーサーには紅白の縞模様の大きな布がかけられ、簡易テントのようになっている。輝は手書きの地図を見ている ]
輝: う〜ん。[ かたわらで寝ているミンメイを見る ]保ってあと3日か。
ミンメイ: [ 寝言で ]お母さん。
[ 輝、ミンメイの毛布をかけなおす。あかりを消す ]

[ ファンレーサーのキズが、漂流生活7日めであることを示す。探検を終えてもどってきた輝 ]
ミンメイ: おかえりなさい。
輝: もうお手あげだ。ここは完全に絶海の孤島だよ。
[ 輝、うなだれる ]
ミンメイ: そう…。食料もこれが最後よ。
輝: 外へ出て助けを呼ぼう!
ミンメイ: 外!?
輝: エアロックから宇宙へ出て、べつのエアロックから艦内に入るのさ。
ミンメイ: でも、宇宙服もないのに。
輝: [ ヘルメットを持って ]このヘルメットは戦闘用のやつだから機密性が高い。補強すればなんとかなると思うよ。
ミンメイ: でも…。

[ 輝とミンメイ、エアロックに向かっている。すでにパイロット・スーツの手足の部分にはテープを巻き、補強がすませてある ]
輝: このパイロット・スーツと組みあわせりゃ、すこしくらいなら保つと思うんだ。
ミンメイ: でも…。
[ 輝とミンメイ、エアロックの前にいる ]
輝: これでスイッチ操作のやりかたはわかった?
ミンメイ: うん。でも、空気はどうするの? 酸素ボンベがないのに。
輝: 酸素は2、3分なら我慢できるよ。
ミンメイ: 息とめて行くの!?
輝: 海にもぐると思えばかわらないだろう?
[ 輝、歩きだす ]
ミンメイ: どこ行くの?
輝: いちばん近いエアロックの方向を、窓から確認しておくの。
ミンメイ: ああ!!
輝: またかよ。浮かんでるもんにいちいちおどろいてたんじゃ…。
[ 宇宙空間を巨大なマグロが1匹ただよっている ]
ミンメイ: マグロかな…? あれ。
輝: マグロ?
ミンメイ: [ 顔をほころばせて ]マグロ!
輝: ああ!
ミンメイ: ああ!
[ 輝とミンメイは顔を見あわせて、同時にいう ]
輝: マグロ! 刺身!
ミンメイ: マグロ! お刺身!

輝: [ 大きく息を吸いこんでとめる。ヘルメットをかぶる ]はあ〜、んっ。
ミンメイ: がんばってね!
[ ミンメイ、エアロックを操作する ]
ミンメイ: よいっしょ。
[ 輝、ふたつの重りを手にして宇宙空間に出る。腰には命綱をしている。重りをひとつ、マグロと反対方向に投げてマグロに取りつく ]
輝: [ 息が苦しい ]んぐぐぐ…!!
[ こんどはエアロックとは逆方向にもうひとつの重りを投げる。輝の身体はマグロとともにエアロックに近づいてゆく。入口に降りたつが、マグロに押しつぶされてしまう。なんとか脱出し、エアロックの扉をたたく ]
ミンメイ: [ エアロックをたたく音が聴こえる ]ああ! [ コックをまわしてエアロックを操作する ]おいっしょ。
[ 苦しむ輝。ミンメイはそばに駆けよって、ヘルメットを脱がせてやる ]
ミンメイ: はあ、はあ、はあ。ああ、おいっしょ…。
輝: [ 息ができるようになる ]ぶはっ! はあ、はあ、はあ…。
ミンメイ: だいじょうぶ?
輝: やったぜ、これでとうぶん食いものには…。
[ 輝、うしろを振りかえると、マグロの頭の部分しかなかに入っていない ]
輝: あ〜! [ 卒倒する ]

[ ミンメイ、マグロの頭を鍋で煮ている ]
ミンメイ: そんなにがっかりしなくてもいいじゃない。宇宙でマグロを釣った人なんて、めったにいないわよ。
輝: でも、二度と宇宙には出られなくなっちまった…。マグロの下敷きになったとき、こいつの歯にひっかかっちゃったんだ。[ パイロット・スーツの腰部分に穴があいている ] これで船の外から救助をもとめる作戦は、おじゃんだ。
ミンメイ: ね、天井に穴あけて上行くっていうのは?
輝: それも考えたよ。でもあの丈夫な鉄板をあける機械が、どこにあると思う?
ミンメイ: 爆破はどうかしら?
輝: レーサーのロケット燃料はほとんど使っちまったし。
ミンメイ: なんに?
輝: そいつ。[ 鍋を煮ている炎を指さす ]
ミンメイ: ああ…。

[ マクロス艦内の食堂。未沙が入ってくる。給仕がクローディアのテーブルにふたりぶんの食事を運んでくる ]
クローディア: ありがとう。
[ 未沙が横をとおりすぎた軍人が仲間に話している ]
軍人A: で、いってやったのさ。戦闘機がいくらあったって、パイロットがいなけりゃどうするんだってな。
クローディア: [ 近づいてきた未沙に ]お疲れさま。どう、避難民の様子?
未沙: ええ、なんとか落ちついて、避難民キャンプをつくりはじめたそうよ。
クローディア: 避難民キャンプ…!?

[ マクロス閉鎖区画。寝ころがりながら輝がミンメイに話している。ふたりとも疲労している ]
輝: だからね、それ以来フォッカー先輩は、急降下しながら女の子を口説くんだって。
ミンメイ: へえ、うふふふ。
輝: へへへ。
[ ミンメイ、歌いだす。歌「シンデレラ」。輝はおどろいてミンメイを見る。ファンレーサーのキズによって漂流12日めであることがわかる ]
輝: いい声、してるんだね。
ミンメイ: うふ、これでも中学のころは歌のレッスンしてたのよ。
輝: ふ〜ん。
ミンメイ: それに、踊りもお芝居も。
輝: へえ、いろいろやってたんだ。僕なんか、ず〜っと飛行機だけさ。
[ ミンメイ、身体を起こす ]
ミンメイ: あら、ステキじゃない、ひとつのことに打ちこめるって。
輝: そうかい。で、おたくは、結局なんになりたいの?
ミンメイ: わたし? そうね…、やっぱりお嫁さんかな!
輝: お嫁さん? そうか、きみならきっといいお嫁さんになれるよ。
ミンメイ: うふ、ありがとう。でも、もうおしまいね。
輝: そんなことないって。先輩たちがきっと捜しだしてくれるよ。
ミンメイ: もう12日めよ。わたしたちなんか、とっくに死んだと思われてるわ。叔母さんたちも…。
[ テントの外で缶が倒れる音がして、ネズミがとおりすぎる。マグロの頭の骨にネズミがたかっている ]
輝: んん!
[ 輝は外に走りだし、ものを投げてネズミを追いはらう ]
輝: ちっ、んん…。
ミンメイ: わたしたちが死んだら、ネズミのいいエサね。きっと、あのマグロみたいに…。
輝: そんなこと、いうもんじゃないよ。
ミンメイ: いいのよ。でもせめて、死ぬ前にいちどでいいから花嫁衣装が着たかったなあ。
輝: ミンメイ…。[ 肩をふるわせているミンメイのうしろ姿を見て ]結婚式でもやりますか!
ミンメイ: そうね、それもいいわね!
[ ミンメイ、輝の白いネッカチーフをはずして頭にかぶり、花嫁衣装のベールにする。輝に右手を差しだす ]
輝: ぼ、僕なんかが相手でいいの?
[ ミンメイ、うなずく。輝、ミンメイの手をとる ]
ミンメイ: ねえ輝、どうせ死ぬならこのままひと思いに…、外に飛びだしましょう!
輝: ん、どうしたの、急に?
ミンメイ: 一緒に死のう。
輝: バカなこというなよ。空から落ちたって、宇宙を漂流したって、たすかったじゃないか。こんども絶対たすかるって。
ミンメイ: だって、そんなこといったって、出口ひとつ見つけられないじゃない。どうせ死ぬのが恐いんでしょ。いくじなし!
[ ミンメイ、輝に背を向ける ]
輝: 自分でも情けないよな。どうせ僕は、飛行機を飛ばすことしか能のない人間で、だけど、だけど僕…、きみのこと…、ごめん。
ミンメイ: そんな意味で…。あは、どうかしてた、わたし。[ 眼に涙をためて ]わたし…。わたし!
[ ミンメイ、輝にすがりついて泣く。輝、ミンメイの頭をなでてなぐさめる。ミンメイは顔を起こし、輝を見つめ、眼をとじる。ふたりのシルエットが接近する。とつぜん天井が破れ、不発弾が落ちてくる。呆気にとられる輝とミンメイ ]
男A: 敵のミサイルだ。
男B: 不発弾だよ。
男A: はやく処理しないと危険だよ、こりゃ。
[ 男らが向けたライトに、輝とミンメイが照らしだされる ]
町会長: ああ、ありゃミンメイちゃんやないか。
ミンメイ: 町会長さん!

[ 輝とミンメイはリフトに乗って助けだされる ]
人びと: [ 口ぐちに ]おい、人が見つかったんだってよ。ええ!?
輝: [ マクロス艦内に街が建造されているのを見て ]なんで、そんな、宇宙船のなかに…。
ミンメイ: うわあステキ! お店もよっちゃんちもそのまま。
よっちゃん: うわ〜、ミンメイ姉ちゃ〜ん!
[ よっちゃん、駆けよってくる ]
ミンメイ: よっちゃん!
よっちゃん: ははあ!
[ ミンメイ、よっちゃん、抱きあってよろこぶ ]
町会長: なんやわからんのやけど、宙に浮いたわてらの街をそのままほったらかしとくのはもったいないし、どうせ船のなかはがらんどうやさかい、一切合切なかへ入れてもうた。
ミンメイ叔父: [ 輝の手をとって ]あいな〜、輝くんですな。ミンメイがな、たいへんお世話になったそうでんなあ。あ、いや、ありがとうありがとう。
輝: あ、あ、いえっ。こちらこそ助けていただいて…。
ミンメイ: [ よっちゃんの母親にこれまでの経過を話している ]それでね、たいへんだったの…。
未沙: [ 艦内放送で ]ブリッジよりお伝えいたします。ただいま攻撃は敵の小型艦1隻による偶発的なものでした。敵艦はバルキリー戦闘機隊の迎撃により撃沈。わがほうは損傷軽微。空襲警報は解除されました。以上。
ミンメイ: [ よっちゃんの母親としゃべっている ]あっははは! ははは、やだあ…。
輝: 悪夢だ。
町会長: せや、ありゃ悪夢や。けど、へばっちゃならんでえ!
[ 町会長に肩をはたかれて、輝はよろめいて倒れる ]
輝: うわっ、と…。
町会長: どないしたい、しっかりせんかい!
男C: 無理だよ、食うもの食ってないんだからよお。
男D: そうだよ、かわいそうになあ。
[ 輝、まわりから助けおこされる ]

ナレーター: たしかに空腹ではあったし、艦内のたたずまいにもショックをうけたが、輝にとって信じられないことは、ミンメイの態度の急変であった。リン・ミンメイ。いったいどんな子なのであろう。
5万の難民を乗せたマクロスは、冥王星空間より地球へ向けて帰還の途に着いた。

[ 次回予告 ]

ナレーター: マクロス艦内に復元された街なみ。そしてミンメイの変身のはやさに戸惑う輝。敵艦隊の偵察艦がマクロスを探知した。フォールド・システムの破壊で生じた隙をうめようとする窮余の策は、功を奏するか。
次回、「超時空要塞マクロス」、「トランス・フォーメーション」。

[ エンディング ]

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登場する人びと(登場回数)

一条輝(4)
リン・ミンメイ(4)
早瀬未沙(4)

ブルーノ・J.グローバル(4)
クローディア・ラサール(4)
ロイ・フォッカー(4)
ヴァネッサ・レイアード(4)
キム・キャビロフ(4)
シャミー・ミリオム(4)

町会長(3)
ミンメイ叔父(リン・シャオチン)(3)
よっちゃん(4)
よっちゃん母(3) - セリフなし

男A - 町会長の相棒役 セリフなし
軍人A - マクロス内レストラン
男A - マクロス市民
男B - マクロス市民
男C - マクロス市民
男D - マクロス市民

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スタッフ

脚本 … 石黒昇
絵コンテ … 高山文彦
演出 … 高山文彦
キャラ作監 … 美樹本晴彦 平野俊弘
原画 … スタジオ・イオ 山崎茂 門上洋子 島田英明 坂田筆明
動画 … 神原敏昭 手塚由紀 吉谷のり子 河上たか子 中野より子

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ノート

本話から、アイキャッチがVF−1Jバルキリー(一条機)のバトロイドの画像にかわる。以後、最終回(第36話「やさしさサヨナラ」)までアイキャッチに変更なし。

リン・ミンメイがはじめて歌う。曲は「シンデレラ」(作詞・作曲=飯島真理)。

輝がミンメイに恋するきっかけとなる重要な回。12日間にわたる漂流生活でのミンメイのイメージは輝の脳裏にふかくきざまれ、以後そのイメージが払拭されることはなかったし、第一次星間大戦が終結する事実上の最終話、第27話「愛は流れる」まで、輝はこのとき芽ばえた恋愛感情をふっきることはできなかった。

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